君にすべてを捧げよう
それを、どこで勘違いしてしまったのだろう。
生まれついての才能など、くだらない幻想に囚われた自分が愚かすぎて消え入りたくなる。
愕然とする楽師に、少女はどこまでも清らかに言う。


『わたし、あなたの歌が大好きよ。こんなに幸せになれるんですもの、きっと、世界中の人があなたの才能を待ってる。皆を幸せにする力を神様が下さったのね』


その言葉は、汚れた体に落雷を落とした。

違う、神などではない。
神がいるとしたら、自分の神は君だ。

こんな自分でも、誰かを幸せに出来ると言うことを教えてくれた。
笑わせられると教えてくれた。
自分に道を教えてくれた。

君が、ずっとずっと、昔から――




ページの上に、ぽたりと雫が落ちた。
大事な本を汚したくなくて慌てて拭って、そのまま自分の頬を拭った。


気を抜けば、声を上げて泣き叫びそうだった。

『少女の為に』

それだけで充分。
充分だよ、蓮。

あたしでも、蓮のお手伝いが出来ていたんだね。
それだけでもう、幸せだよ。



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