君にすべてを捧げよう
泣きはらした目は、どれだけ冷やしてもごまかしがきかなかった。
メイクでもどうにもならなくて、それどころか睡眠不足で顔色もよくないまま。
身支度だけはどうにか整えたけれど、もう動く力もない。


泣きすぎて、頭がぼんやりしている。


信じられないことばかりで、もうどうしていいのか分からない。
テーブルを見れば、黒表紙の本。

瑞穂さんがあれを夜更けに持ってきたのは、ここを出ていく前に、あたしに考える時間を与えたかったのだろうか。
だとしたら、遅すぎて、意味がない。


「読まなきゃ、よかった……」


読まなければ、知らなければ。
けれど、いつかあたしは読んでいただろう。

待ちわびた、坂城蓮の本だから。

読まないわけがない。
発売日には、きっと買っていた。

発売日は十日後。入籍を済ませてから見ていれば、まだこの心の嵐も穏やかだっただろうか。


「そんなわけ、ない……」



会いたい。
会いたい。
会いたい。

それは、どちらを指してる?

蓮?
智?

あたしが今、駆けて行きたいくらい会いたいのは、どっち?


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