瞬きさえも忘れていた。
「違うの、梨乃ちゃん。相手は岩本くんじゃないんだってば」

吉田さんは慌てて否定する。



ああ……。

違和感の正体、これだったんだ。



「相手は誰なんですか? ていうか、どうして吉田さんがそんなこと……」


「中学からの親友が、岩本くんたちと同じ高校でね。私も最近知ったんだけど、その友達、陽奈乃さんと結構仲良かったんだって。でもずっと連絡途絶えてたらしいんだけど、この前突然、結婚式の招待状が届いたって」


「岩本さんはフラれたってことですか?」


「その辺のことは良くわかんないんだけど……」


至極、曖昧な情報だと思う。

信憑性に欠けるような、でも真実味もあるような。



「相手は誰なんですか? 陽奈乃さん、誰と結婚するんですか?」


フッと目を伏せ、私から視線を外した吉田さん。

グラスにささっているストローを、クルクルと意味もなく回した。積み重なった氷がカラコロと小さな音を立てて回転し、底の方に残った薄肌色の液体も揺れる。



「陽奈乃さんのお父さんが、どっかの市長だって前に話したよね? そこの市民病院の脳外科医だって」


言い終えてから、吉田さんは再び私を真っ直ぐ見詰めた。


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