瞬きさえも忘れていた。
ブラジャーのホックを嵌めるのに手こずっていると、

「もう少し急げない?」

また岩本さんが文句を言う。



何なの、一体?


岩本さんの焦りっぷりは尋常じゃない。用事でも思い出したんだろうか。



「これでも急いでます。岩本さん、うるさいです。気が散るから黙っててください」

キツい口調で返せば、「はい」と力なく返事をして、ようやく口を閉じてくれた。



隣の部屋で胡座をかいて座り、タバコを吸うその仕草にも、いつもの余裕がなくて何だかそわそわしている。


あっという間に短くなったそれを、円卓の上の灰皿にねじ込んだ頃、ようやく服を着終えた私は立ち上がった。



すぐさま奪うように私の手を取り、そのまま玄関まで半ば引きずられるように連れて行かれた。



「あの、岩本さん……何か急いでます?」


「急いでるよ。何時だと思ってんの?」


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