瞬きさえも忘れていた。
「何、笑ってんだよ? 腹立つ……」

ようやく顔を上げて、こちらをねめつける岩本さんに、


「友達と飲んでて、このぐらい遅くなること、結構あるから。もし起きてたとしても、別に心配はしてないと思う」

安心させようとしてそう言ったのに、岩本さんはフイと前を向き直り、

「不良娘」

その不機嫌な横顔がボソッと毒づいた。




『彼女の両親に反対されたんだって。詳しくは知らないけど、彼女の父親がどっかの市長だとか誰かが言ってたような……』


いつだったか、社員食堂で吉田さんが話してくれたことを、ふと思い出した。


元カノと付き合っている時、岩本さんはきっと、彼女の両親にすごく気を使っていたんじゃないかな。


日付が変わってから家に帰すなんて、とんでもないことだったに違いない。

高校生の頃から付き合っていたんだから、尚更。



私のことを気遣ってくれる岩本さんの気持ちは嬉しい。でも――


この時、元カノの影が私に重く圧し掛かった。


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