星の輝く夜空の下で


「言いなよ」


夏芽は春実に背を向けたまま言った


「世の中は嘘で溢れてる。お世辞なんてものも結局は相手を傷つけない嘘だ。人は嘘に浮かれ、嘘を愛し、そして最後には嘘で傷付けてしまう。嘘の愛で涙するくらいなら本音を言って嫌われた方が楽じゃない?」


春実の中に何かが芽生えた


「言いなよ。本音ってやつをさ」


春実は手を握りしめたまま震えてた

背を向けてた夏芽は振り返った


「大丈夫。殴られそうになったら、柚木さんのことちゃんと守ってあげるから」

「…それ、本音?」

「本当」


春実は勇気を振り絞った


「春実の友達はあたしたちでしょ?あたしたちがいないと何にも出来ないんでしょ?」

「ふざけないでよ」

「はぁ?」

「あんたたちの事友達だなんて一ミリたりとも思ったことないわ!!不細工だ?みんな自分の顔鏡で見てから言えっつーの!!あたしが学校一可愛いからってひがんでんじゃねぇ!!」


春実は息切れをした
普段言えないことを言うのにはすごい精神力が必要だった


「へえ、その可愛い顔面、ぼこぼこにしていい?」


ボス的な女は春実の胸ぐらを掴んだ


「じゃあ、あたしがそのぶっさいくな顔面、もっとぶさいくにしていい?」


夏芽はボス的な女を蹴飛ばした
女たちは夏芽の強さに驚いて固まってしまった


「あんたが流した元ヤンの噂。あれ嘘じゃなくて本当だから」


女たちは怯えて逃げていった


「本当に元ヤンなの…?」


春実は力が抜けて立ちすくんでいた


「嘘。中学生の頃、空手やってたの。それだけ。非行には走ってない」

「何で守ってくれたの?」


春実の目が潤む


「言ったでしょ?柚木さんの事ちゃんと守るって」

「何で冷たかったのに今は優しいの?」


涙が零れた


「柚木さんの本当の気持ちがわかったから」

「浅岡さん!!」


春実は夏芽に飛びついたが夏芽は避けてしまい春実は壁にぶつかった


「何で避けるの!?」

「顔面汚いから」

「ひどい!!感動の抱擁なのに!!」

「顔洗ってきて、はやく学校一可愛くなってきなよ」

「うん!!」


春実はトイレに駆け込んで行った
その背中に顔がほころんだ夏芽の後ろからひょっこり朱子と星夜が現れた


「いざというときかっこいいんだよね。夏芽が男だったら惚れてるわ」

「あそ」

「俺、お前の事見直した。いいやつじゃん」

「そりゃどぉも」


夏芽は微笑んだ


「夏芽が笑った!!明日雪降る!!」

「春だっつーの!!雪なんか降るか!!」

「じゃあ台風だ」

「朱子、明日晴れたら蹴飛ばすから」

「大丈夫。自信あるから」


夏芽と朱子の口喧嘩をよそに星夜はぼんやりしていた


「あんな優しく笑うんだ」


星夜には夏芽の微笑みがいとおしく見えた


ちなみに次の日は本当に台風だった


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