溺愛MOON
シホさんというのがきっとこの間一緒に来た女性の名前なんだろう。

あの無駄にツンツンした人の。


彼女を思い出すと、目の前の彼の苦虫を噛み潰したような表情の意味も何となく分かる。

だからクスッと笑ってしまった。


「あそこのバー、結構雰囲気いいよね」

「あ、私は行ったことないんです」

「あぁ、そうか。地元の人は行かないもんなのか」


地元の人。

そんな風に言われるのは何だか変な感じだ。


稲垣さんから見たら私は地元の人で間違いはないんだろうけど。


「連れて行ってあげようか?」

「え?」

「あ、ウソウソ。一緒に行ってくれませんか?」

「……」

「行ってみたくない?」


行ってみたいかみたくないかと言えば、行ってみたい。

だってこの島にいて、お洒落なバーで飲むことなんてない。
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