溺愛MOON
結局、私は稲垣さんに流されるまま夜に会う約束をしてしまった。

あのバーに行ってみたいのは本当だったし、気分転換の方法を探していたのも事実だ。


定時で仕事を終えると家に戻ってノースリーブのワンピースに着替えた。

かぐやは今日は私を待っているだろうか。


そんな考えがふと浮かんだけれど、すぐにかぐやは私の彼氏じゃないと頭を振った。

了解を取る必要はないのだ。


表に出て、たてつけの悪い扉をガタガタと閉めていると、後ろから「どっか行くの」と声をかけられた。


「かぐや……」


かぐやが明るい内から外にいるなんて珍しい。

そしてこんなタイミングで見つかるなんて。


予想していなかった事態に私は平静を装うことができずに、あたふたと部屋のカギを閉めながら聞いた。


「かぐやこそ、おでかけ? 珍しいね」

「……海、見に行ってた」

「……なんかあった?」


かぐやの様子がいつもと違う気がして、私は覗きこむようにかぐやの顔色を窺ってしまった。

少し落ち込んでいるような。
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