溺愛MOON
待ち合わせたホテルのロビーには見知った地元民の顔ぶれはなくて、私はホッとしていた。

ここの全国規模で展開するここのホテルの従業員は、ここに滞在しているけれど地元の人達という感じではない。


「本当に来てくれたんだ」


嬉しそうに微笑む稲垣さんの顔を見て、胸がチクリと痛んだ。

それは稲垣さんに対する罪悪感なのか、かぐやに対するものなのか。


考えたくなくて私は首を振って気持ちを入れ替えると、「一度ここへ来てみたかっただけですから」と曖昧に微笑んだ。


それからバーカウンターのあるホテルのレストランで食事をしながらカクテルを飲んだ。


「こんな所で可愛い女の子とデートできるとは思わなかった。出張も悪くないな」

「……軽いなぁ」


そんな風に言われると困ってしまう。

けれど私も同じなのかもしれない。


初対面のかぐやに必要以上に構って、懐いて。

かぐやからすれば何て軽い女だと思ったのかもしれない。


かぐやは……、今、何してるかな。


バーの薄暗い照明を反射した窓からは、真っ暗で何も見えない。

波の音も聞こえない。
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