溺愛MOON
この真っ暗な窓から、月の光に乗ってかぐやが現れればいいのに。

そんな妄想をしながらぼんやりと稲垣さんの話を聞いていた。


都会は人が多すぎて大変だとか。

豪雨で電車が止まったとか。


私もほんの数ヶ月前まではそこに居たのに、知らない稲垣さんは私がこの島に滞在して長いと思ったみたいだった。


「どうして香月ちゃんは島で暮らしてるの?」

「……意味なんて。ただ丁度いい仕事が見つかったってだけで」

「嘘だー。いくら仕事があるからってこんなへんぴな離島まで、若い女の子が就職しないでしょ、普通」

「……」


島の人じゃない稲垣さんは、ごく普通に踏み込んだ質問をしてくる。

それで、私は自分が今まで島の人達がどれだけ温かく、友好的に受け入れてもらっていたかを知った。


「さては、男にフラれたな!?」

「そんなんじゃ……」


恋人なんてしばらくいない。

ただ、夢見てた仕事に挫折して現実を知って、逃げてきただけ。
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