溺愛MOON
かぐやにどっぷりとハマる私に変化が訪れたのは7月も終わりの頃だった。


「今日の船便は午後から欠航が決まったでな。香月ちゃんも家に帰りなさい」


すでに雨足は強くなってきていて、私はオンボロ長屋が吹っ飛んでしまうんじゃないかとハラハラしていた。


「避難勧告が出たら島内放送が入る。したら小学校の体育館に行くんだぞ」


プレハブのトタン板を叩く雨の音がバラバラと耳にうるさい。


「中条さんは?」

「俺は役場で待機だ。の前に高橋のバァちゃんは避難させとかないといかん」


高橋さんは魚の干物を観光客に路上で売り歩いてるお婆ちゃんだ。

よく仕事帰りの私に魚の干物を持たせてくれる。


「何で高橋さん? 別に足も悪くなさそうだし元気そうじゃないですか」

「高橋のバァちゃん家は山の裏手にあるでな。避難勧告より前に、土砂崩れの心配があるんだわ。しかもあのババァが頑固でよ~。中々避難したがらんのだわ。ジィちゃんの遺影を守るとか言ってな」


ため息をつきながら中条さんが小屋の鍵を持って立ち上がる。

どうやら本当に今日の仕事はお終いみたいだ。
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