溺愛MOON
「ふぅん。大変だな」

「そうだよ! 私は普通の人なんだから生きていくのだって大変なんだから!」

「……何、普通って」


感情的に声を荒げた私に反して、かぐやの声が余りに低くて冷たかったから背筋がゾクッとして、一瞬で頭が冷えた。

かぐやは出会った時と同じ冷たい瞳をしていた。


私のこと、無機物でも見るような、感情のない瞳。


あぁ、拒絶されたんだと理解すると、勝手に瞳から涙が零れ落ちた。


「何、それ。何で香月が泣くの?」


違う。

拒絶されたのはあの時から。

かぐやが携帯を隠したあの瞬間に、私は拒絶されたんだ。


「かぐやには、分からないよ……っ」


喉の奥がかーっとなって苦しくて辛くて、私はかぐやの部屋から逃げた。

私達はやっぱり住む世界が違う。


かぐやにとって私は居心地の良い単なる仮宿。

それ以上でもそれ以下でもないんだ。
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