ソラナミダ
「……風呂入るとこだったの?」


晴海くんの声に、ぐるっと身体を反転させると…


「…やっぱみたんじゃん。」



彼はくすくすと笑っていた。


あ~あ…。
大恥。せめてカワイイ下着だったらまだしも…。



「…ごめん。大丈夫、今忘れたから。」



いえいえ。


子供じゃあないんだから、有り得ないでしょう?




……複雑……。








「……もー……、何しに来たの?」


私は晴海くんに問いた。





彼は手にしたDVDを差し出す。





「これ、…一緒に観ようと思って。」





それは…晴海くんが主演をつとめた映画のDVD。


しかも、発売前のもの。


その映画は、観たいと思っていたものの……


時間がとれず、観に行けなかった。



「………。…観たい!観たいけど…、なんでもっと普通の登場出来ないかなあ…?」


とりあえず、ここに居ようとしているのは確かであるから…、とりあえず、若干散らかったフローリングの上を片付け始める。




「うん、この映画観るなら…こんくらいのホラー感出した方が雰囲気出るかと思って。プロローグっぽいかなって。」



「……演出家ね。でも…、私が、断るかもしれないのに?」



「でも。断らないでしょ?わざわざ部屋、片付けることないのに。下着もね。気にしないよ、別に。」




「…………。」



色々と…見透かされている。




「平瀬さんて、断れない性分?」



「………。仕事においてはね。よく…ご存知で。」



「そこに付け込んだからね。でも……、これは、ビジネスじゃないよ。」



「……………。」



「平瀬さんが観て、率直な感想を聞きたいっていうのもあるけど……。それだけなら、わざわざ来ない。」



「……え…?」



「一緒に観たいと思った。……平瀬さんと…。」




「………。……そう。」





妖艶な瞳に……


惑わされそうになった。






私は努めて冷静に……



晴海くんを、リビングへと通す。







何の遠慮もない様子で、準備を始める彼の背中を見つめながら……



私は、キッチンに立っていた。





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