ソラナミダ
いよいよクライマックス。


晴海くん演じる青年が……


ヒロインの無惨な死に涙を流す。


絶望の念が渦巻いて…

声をかすらせ泣き叫ぶ。





「…………。」



晴海くんと知り合って…、

彼が出るドラマは、これまでも観てきた。


今まで…


こんな悲痛な演技など、観たことがなかった。



甘いマスクと、甘い声で視聴者を魅了するような……


そんな生優しい彼ではなくて。



怖いとさえ思える。



妖艶で、感情が剥き出しで、人間の憎しみや悲しみがリアルに映し出されていて……。



ふと、思った。



柔らかい彼の雰囲気とはうらはらな、陰に隠れた一面………。



もしかしたら、胸の内で燻っている感情が、この青年の姿へと反映されたのではないか、と……。



もし、ホントにそうなのであれば……、









「……さみしいね。」




「………?」




…さみしいよ、晴海くん。




「………わこ?」



初めて……


晴海くんの視線が、画面から離れた。


私は画面を見たまま。


彼の方へは向けなかった。




「……泣いてるの?」



「………泣いて…?」



手の甲で、目元を擦る。


「…泣いてなんかない。」



水滴が……
触れた。



「…泣くわけがない。」




君のその嘘の涙に…


つられるわけはない。




なのに……


高ぶる感情がある。


すぐ隣りにいる彼と、
画面の奥の彼の瞳が重なって見えた時に……



「………なんで……?」



私はやっと自覚した。







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