ソラナミダ
「お前どうして今日は飲まないんだ?酒豪のくせに。」



木村さんの声に、ようやく我に返る。



「…あ…、それは…」


これから控えてる(はずの)二人の時間に備えて…
なんて言ったらエロっぽい。



「帰ってからひと仕事控えてるんで。」



「…お前は…真面目か!そんなん気にしてたらなあ、うまい酒もまずくなるぞ。」


おっしゃる通り…。
気になる対象は違えど、酒が喉を通らない。



「…なあ……、平瀬。」


「…はい。」


「会社で…余計なことを言ったか?」


「…え?」


「あのな、社内恋愛が悪いとかそういうんじゃない。ただ、なんでも完璧にこなそうだなんて…お前にゃ到底無理な話だ。」


「…………。」



「仕事をぬかりなくこなしたい気持ちはわかる。けどなあ、どっちも完璧にできるような人間はどこにもいないんだよ。」


「…けど…」


「その努力は必要かもしれない。けどどっかで息抜かないと。息ぐるしくなって共倒れするぞ。」



「………。」



「俺はあいつもお前もちょっと特別に買ってる部分はあるからな。余計なお節介だと思うかもしれない。まあ……、つまりはもっと軽~く、肩の力抜いて!」



「………重たいですか?」



「……は?」



「こういうのって、空回りって言うんですかね…。」



「…平瀬…?」



「仕事は順調です。でも……恋は……どうしたらいいのかわかりません。正直、わからないんです。」



「……うまく…行ってないのか?」


「……わかりません。」



「……参ったな、俺の経験談じゃ参考にならないし……」



木村さんが、落ち込んだ私におろおろする。



「…いや、うまくいってるかもしれないです。でも……気持ちが足りないっていうか。」



「久住が、か?」


「…名前はシークレットです。」



「…そうだな。じゃあ…、相手の方が?」



「…いえ…。」


「お前が?」


「……はい。指摘されたんです。私は私なりにやってるつもりでした。でも……相手の出方に応えるだけで、自分からは何もしてないんだって…気づいたんです。」



「…………。」



「…なのに…やっぱり上手くできない。正解がわからないんです。」



木村さんはいつになく真剣な顔つきで……


腕組をして、何やら考えこんだ。





< 151 / 335 >

この作品をシェア

pagetop