ソラナミダ
「美帆。木村さんから統計調査の資料預かってきたんだけど……」
「ありがとう。…そこに置いててくれる。」
「うん。」
美帆ならば、
『何かあったの?』と、食いつくようにして…
聞いてくれるかと思っていた。
なのに……
パソコンの画面から、目を離さない。
「……あの……」
行き場のない想いを、どんなに毒を吐こうが受け止めてくれるのは……
美帆だけ。
おかしなことに……
その、鉄板の法則すら成り立たない。
「……なに?」
返す返事も素っ気なく……
出鼻をくじかれてしまう。
「…ごめん、忙しいよね。……だから…また、後で。」
「………。」
返事は……
なかった。
「平瀬さん、どうかしたんスか?」
本日一番に、私に声を掛けてきたのは……
都築くん。
「……ううん、何でもない。」
ぽつんと一人でいたのが気になったのだろう。なんて……出来た後輩だ。
「…そうっスか?もし回せる仕事あるなら回して下さいよ?一人じゃ手ェまわんないこともあるでしょうから。」
「……ありがとう。」
「…あと、体調は大丈夫なんスか?」
「…え?」
「昨日ほとんど酒入ってなかったし、こんなに遅刻するなんて……俺入社して初めてくらいかと思ったんで。」
「…………。」
「木村さんも厳しいですね、機嫌でも悪いとか?」
「ううん。多分仕事に対する姿勢の問題だと思う。すぐ見透かされるんだよね…、木村さんには。」
「……ふ~ん…?」
「…さ、仕事仕事~。ハイ、都築くんも行った行った!」
「……はい。失礼します。」
都築くんですら気づいているこの状況……。
前者の二人の、よそよそしい態度。
何かが……、狂い始めている。
その序章は。
ほんの……些細な出来事から、始まっていた。