〔完〕 うち、なでしこになるんだから
「じゅーちゃん(珠理)入れて。」
目の前に、小さな男の子が立っている。
よく見ると・・・幼い時の源希ではないか。
あどけない笑顔。まっすぐ夢を見つめる目。優しい心。
もう、失ってしまった“宝物”を久しぶりに見た気がする。
中学二年生の今とは違って、不良に見える格好をしてない。
当たり前だ。あのようになってしまったのは、中学に入ってからだ。
「いいよ。」
勝手にしゃべっている。意識は中二だから、違和感を感じる。
あと珠理の声色は、今よりずっと高い。
近くには、ボールを蹴れるようになった、幼い剛溜。今より若く見える、珠理と剛溜の父親と、源希の父親がいる。
珠理が幼き日の光景だと、やっと理解した。
源希が、持ってた自分のボールを地面に置く。
「ゲンちゃん(源希)、ゴール(剛溜)やるよ。」
「よーし、負けないからね。」
トコトコと、剛溜は珠理たちに近づく。