〔完〕 うち、なでしこになるんだから
「休憩。」

『はーい。』

 珠理の体はまだ軽く感じる。
 うっすらと汗が出てきた。

 体育館の隅に座る。
 大きく息を吐く。ため息ではなくて、ただ呼吸を整えるだけ。
 そして、水を飲む。

 珠理の頭の中はサッカーしか考えてない。
 感情はサッカーに対することしか出ない。

 味方がゴールを決めて嬉しいとか、ゴールを守りきれなくて悔しいとか。

 他のチームメートが喋ってても、それに気づかない。


「ジュジュ、ジュジュ。」

 チームメートで同い年の、アンダーソンあかりの声にも気づかない。
 あかりが珠理の体揺すって、やっと気づいた。

「タワー(あかり)、ごめん気づかなくて。」
「いいのよ。次、キーパー練だから、準備してだって。」
「了解。」

 うきうきしながら、水筒のそばにあったゴールキーパーグローブをはめる。

 自主練のあと、必要ないから外してた。

 キーパー練は、練習の中で一番の楽しみ。

 はめている時の表情は柔らかい。練習の時は怖い。



――よし、準備完了。――

 両手を開いたり閉じたり。叩いたりして、手に馴染ませる。




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