〔完〕 うち、なでしこになるんだから
 ちらりと、秋田ゆう乃(アキタユウノ)と、野々村春世(ノノムラハルセ)の様子を見る。

 二人ともゴールキーパーグローブをはめている最中だ。

 同い年のゆう乃と一歳年下の春世は、珠理にとってライバル中のライバル。

 ゴールキーパーとして試合の舞台に立てるのは、この三人、いやチーム内にもっといるかもしれないが、たったの一人だけ。

 珠理は今、正ゴールキーパーだが、その立場は決して安泰ではない。

 油断できない。


 冷たい風が吹いてきた。

 集中力が高まる。

 舞台袖の窓から空を見れば、太陽は西へ傾いている。

 珠理は太陽とは反対側にいる、監督のもとに駆け寄る。

 舞台にあるタイマーが、残り三十秒切ったことを示しているから。


「早くして!」

 絆が、まだ休憩している人に集まるように呼びかけた。
 それに応じて慌てて駆けつけ、タイマーが鳴る前に全員揃った。

『お願いします。』



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