Wild Rock
「強いものなど、この世にいやしない。だが、お前には幸いなことに、いいものがある」
その言葉に、ファブニルは涙を流す目をマリアに向けた。
「仲間、とか、そんなクサイセリフじゃないでしょーね?」
「想いだ。想いがあるからこそ歩き出せるのが人だ。それは人で有るからこそあるもの。大事にするべきものだ」
芯の通った碧く力強い瞳で言われ、ファブニルは涙を拭いながら笑みをこぼした。
「何よ…やっぱりクサイセリフじゃないの……フフ」
お前は魔族などではなく、ただのヒトなのだと、そう言われた気がして、自然と心が軽くなっていく。
その笑みからこぼれる涙は、哀しみの涙ではなく、感謝の涙だった。
マリアは舌打ちをし、ドアへと向かった。
「タバコがきれた」
ファブニルは手を振って見送り、マリアが出て行ったのを確認してから背もたれに体を預けた。
「ありがと…マリア…」