牙龍−元姫−



こんなにも苛立った遼はあまり目にすることはないから少し怖い。




「遼?」

「……」





何も言わず私が座るベンチに近づき見下ろしてくる遼を不自然に思い、小首を傾げる。





「?……っわ、」





だけど遼は黙ったまま、いきなり膝裏と背中に手を回して持ち上げた。
……わたしを。



遼の手によって宙に浮かぶ。



所謂、お姫様だっこ。





「ちょ、遼っ!」





肩を揺さぶり下ろすように懇願する。



ま、待って!これは流石に恥ずかしい!



顔が紅葉を散らすように火照る。



お姫様だっこは少し憧れだったりする。昔は…
『白馬の王子しゃまにおむえにきてもらうのおー!』
とか現実離れした事を言っていた気もする。



でも実際されるとかなり恥ずかしすぎる。いまにでも逃げ出したいくらいの羞恥が襲う。





「お、下ろして!」





お姫様だっこされるほど体調が悪い訳じゃない。ただ暑いから休んでただけ。なので勿論歩ける。



じたばたと手足を動かして遼に訴えかけるが…





「黙っとけ」





その言葉にグッと口を紡ぐしかなかった。
この遼には何を言っても無駄だと悟り大人しくする。
< 702 / 776 >

この作品をシェア

pagetop