獣は禁断の果実を蝕むのか。
「お疲れ様です。」
専務のジョッキにカチンと音を鳴らして乾杯。
はあ…
やっぱりコレ。
思わず素の自分が出そうになるのを必死にこらえる。
私は今、普通のOLの小松沙菜じゃなくて、スパイとして送り込まれた偽物の小松沙菜なんだから。
そう言いきかせていたのに、ジョッキが9つ空いたのまでは覚えている。
「小松は強いな。」
驚いたように笑った専務の顔が、まるで子供みたいに無邪気で。
専務って仮面の下の藤衛梓悸って人間を見た気がして。
「専務は、どうしてあかりさんと別れたんですか?」
アルコールの力は恐ろしい。
酔っていた勢いとはいえ、つい、聞いてしまった。