獣は禁断の果実を蝕むのか。
エレベーターから降りると、携帯を開いて電話を掛けた。
「もしもし…」
「小松、どうしたの?」
電話越しに聞こえる、皆瀬さんの落ち着いた声。
「……デジウェアは、手に入れました。ただ……」
ゆっくりと言葉を選ぶ。
「ただ?」
「……時間をいただけますか?」
本当なら、すぐにでも届けなきゃいけない。
でも、その前に私にはやらなきゃいけないことがある。
どうしても、それをやらなければいけない。
だから、時間が欲しかった。
電話の向こうの言葉は聞こえない。
きっと、困っているのは分かる。
常務との逆転のチャンス。
早く欲しいもんね。
無言の電話越しにトクン、トクンと、緊張にも似た申し訳ない気持ちで心臓が音を立てる。