獣は禁断の果実を蝕むのか。
初めから知っていて、私の正体をつかむためにここまでしたんだ。
そう思ったら、今までのことは。
全部ウソだったって。
向けられた笑顔も。
包み込んでくれた温かさも。
恥ずかしそうにうつむいた顔も。
本当の小松沙菜を見抜いていたから、こんなピッタリな服も選べたんだ。
この甘い香りのように包み込んで。
本当は牙をむいた冷酷な獣だった。
だから、流れる涙なんかもう気にしない。
パッと目を開いて、専務の顔を見上げた。
「そうです。私は偽物の小松沙菜です。デジウェアを盗むために送り込まれました。だから、派手な服も濃いメイクも、本当は苦手で、専務の選んだ地味なスーツが似合っていて、仕事なんて出来ないし、秘書なんて華やかな世界も知りませんでした。」
ポロポロと流れ落ちる涙と同じで、次々に言葉は出てくる。
「5流の大学を出て、なんとか就職したのがキャピステールですね。」
専務の言葉にコクンとうなずいた。