ふたつの背中を抱きしめた



涙で崩れたメイクを直しロッカールームを出ようとした私は、思い返して自分のロッカーをもう1度振り返った。


そういえば、スタッフ用の法被を着るのを忘れていた。

お祭りが始まったら、子供達や外部の人に一目で正規スタッフだと分かるようにと法被を着る決まりになっている。

けれど、朝から準備で駆け回っていた私は忙しさにかまけてすっかり着用を忘れていた。

今更かも、と思いながらも自分のロッカーを開けてハンガーに架けておいた法被を手にした。


サッとそれに腕を通して軽く裾を整えると

違和感に気が付いた。

…ポケットに何か入ってる?

あれ、私何か入れたっけと思いながらポケットを探ると

出てきたのは、各施設に送ったのと同じ招待状だった。

「?」

入れた覚えの無い招待状に首を捻りながら見てみると

そこには

『ちんちくりん様』

と、見覚えのある癖のある字で宛名が書かれていた。

私は、目眩がするほどの心臓の高鳴りを覚えて

慌てて中を開く。


そこには。


『  招待状

 トマトが実をつけました。

ぜひ食べに来て下さい。』


癖のある強い字で書かれたメッセージと

カラーペンで描いたお世辞にも上手いとは言えない

真っ赤なトマトと
ニコニコ顔の女の子が描かれていた。


「…あはは、柊くん、絵ヘタすぎ!まさかこれ、私?ふ、ふふ…あははは…は…」


涙が溢れてしょうがなかった。


その場にしゃがみこんで手で顔を覆って泣いた。


こんなに

こんなに苦しい切なさで誰かを愛しいと思ったのは初めてだった。


幸せじゃない。
甘くもない。

けれど

狂おしいほど

愛しい。



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