ふたつの背中を抱きしめた
なんのために僕は生きてきたのだろう。
なんのために僕は努力し続けたのだろう。
僕は『浅葉綜司』になれなかった。
僕はいったい誰なんだろう。
その日の夜中、
綜司さんは近所の雑居ビルから飛び降りた。
幸い、落ちた場所が植え込みの上で綜司さんは奇跡的に軽症で済んだ。
目を醒ました綜司さんは病室に駆け付けたご両親を見て、泣いた。
「…死にたい…」
そう言って、初めてご両親の前で泣きじゃくった。
そこで義父様と義母様は初めて気が付いた。
自分達が21年間かけて息子の心を壊してきたことに。
1度砕け散った心はもう戻ることはなかった。
義父様の力で綜司さんの自殺未遂はただの転落事故として扱われ、怪我の治った綜司さんは再び大学に通った。
綜司さんは砕けた心を抱えながらも貼り付いた笑顔で学校生活を送り、そして家に帰ると両親の前で「死にたい」と自分の存在を否定し続けた。
そんな綜司さんの姿にご両親は憔悴していた。
目を離すと再び死のうとしてしまう綜司さんに、ご両親は自分達がどれほど息子を追い詰めていたかを思い知らされる。
もう、名士だとか跡取りだとかどうでもいい。
ただ、息子が、最愛の一人息子が生きてさえいてくれれば。
自殺未遂を繰り返す綜司さんを前にご両親の願いは切なるものへと変わっていった。