ふたつの背中を抱きしめた
…柊くんて、やっぱ難しい。
何が楽しくて何がイヤなのか、彼は圧倒的に言葉が足りない気がする。
なぜ彼はあんなに他人を突っぱねるんだろう。
どうして彼は…誰にも笑顔を見せないんだろう。
そんな私の疑問は、ある日唐突に解ける事になる。
「H養護施設?」
「そう、櫻井さんならきっと知ってるわよね。」
それは、児童養護施設へ送る夏祭りの招待状を園長と作っていた時のこと。
私はふと先日の話を思い出して「そういえば柊くんて、昔ここの夏祭り来てたんですよね。近くの施設だったんですか?」とたわいも無く聞いた答えだった。
「柊くん、H養護施設にいたんですか…?」
私は自分の声が震えてるのが分かった。
5年前。
職員の虐待が発覚して閉鎖になった民間の児童養護施設があった。
日常的に行われていたと云うその虐待の酷さはマスコミを騒がせ世間の注目を集めた。
その頃の私はもう児童指導員になって子供の福祉に係わる事を決めてたから、そのニュースが物凄くショックだったのを覚えている。
「そこが閉鎖してからは他の施設に移ったけどね。でも生まれてから13年間、彼はあの施設で虐待を受けて育ったの。」
「…!?」
私は園長の言葉にもうひとつの衝撃を受けた。