ふたつの背中を抱きしめた


「生まれてからって…柊くんはいつから……」

そう聞く私の手は震えていて、とても招待状を書くペンを握れない。

園長はそんな私を冷静に見つめて口を開いた。

「生まれてすぐ、よ。柊くんはね赤ん坊の時に施設の前に捨てられていたの。おくるみに包まれただけで、何も持たずにね。」


目の前が、

真っ暗になっていく。


「H養護施設は乳児院も運営していたからね。児童施設ほどは酷くなかったけど結局そこもろくな環境じゃあ無かったわ。

そんな所で乳幼児期を過ごしてその後、虐待と戦いながら育った。

そんな環境で育ちながらも柊くんが非行に走ったりしなかったのは立派だと思うわ。

でも、そのせいで彼は心を開く術を知らずに育ってしまった。」


--…5年前、新聞で読んだ記事には

子供達は罰と証されては日常的に殴られていたと。

子供達は自己主張どころかろくに発言する事も許されず、そこに人権など無かったと。

そして歪んだ環境で暮らす子供達は次第にその鬱憤を仲間にぶつけるようになりいさかいや虐めが横行していたと。

目を覆いたくなるような残酷な記録が載っていた。


そんな所に。

そんな所に、柊くんは居たんだ。

たった独りで。

心の支えになる親の思い出さえ持たずに。

何も持たずに。

たった独りで……!!



私は堪え切れずに顔を手で覆って、泣いた。

涙が、止まらなかった。


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