ふたつの背中を抱きしめた
結婚式の相談が済むと義母様は綜司さんの話をやたらと聞きたがった。
離れて暮らす一人息子の事が気になるのは当たり前だし、義母様は昔から綜司さんを溺愛していたから気に掛かってしょうがないんだと思う。
でも昔に比べて義母様はずいぶんと優しくなった気がするなぁ。
子供の頃は綜司さんの事を思うが故に義母様はとても厳しい人だったような記憶が朧気に私の頭に残っている。
私は義母様と話をしながらふと、昔の記憶に思考を漂わせた。
「そうたん、あそぼ?」
そう言って服の裾をチョコンと掴んだ幼い私に、小学生だった綜司さんは首を横に振って断わった。
「ダメだよ、これからピアノ教室に行くんだ。」
「いいな、まひろもピアノひきたい。ピアノたのしい?」
「全然。楽しくなんかない。真陽と遊ぶ方がずっとずっと楽しい。」
そう言って俯いた綜司さんの目には、涙が浮かんでいて。
「そうたん?どうしてなくの?ピアノきらいなの?」
無邪気にそう聞いた私に、綜司さんはポロポロと涙をこぼして言った。
「キライだ、ピアノも塾も学校も…お母さんも…!」
「そうたん、なかないで。いいこだから、なかないで。」
辛そうに泣き出した綜司さんに慌てた私は、
自分がいつもお祖母ちゃんにしてもらっていたように、綜司さんの頭に手を伸ばして優しく優しく撫でた。
それを受け入れるようにしゃがみこんで泣き続ける綜司さんを、私はゆっくりといつまでも撫で続ける。
やがて、
「綜司ー!どこへ行ったのー!ピアノ教室へ行く時間でしょう、早く車に乗りなさいー!」
遠くで綜司さんのお母さんが呼ぶ声が聞こえると、綜司さんは慌てて立ち上がって涙をゴシゴシ拭い
「真陽、僕が泣いたコト誰にも言わないで。」
そう言って綜司さんを呼ぶお母さんの方へと走って行った。