フクロウの声
序章
昔語りになる。

あれはおれが、
まだ人間どもの近くにいたころのことだ。

今じゃもうおれに姿はない。

いや、あの頃も実体として
おれは存在していたわけではないが、
それでも姿はあった。

もっとも人間たちに見えることは稀だったけれども。

あの頃、おれは随分長い間
人間どもにご神体と呼ばれているものに閉じ込められていて、
いい加減飽き飽きしていた。

だからあの娘に出会った時、
おれは少しばかり悪戯をしてやろうと、
そんなふうに軽い気分でいた。

何しろ、おれが閉じ込められたところと言ったら、
人間どもがおれを閉じ込めたくせに寄り付こうともしなかったから、
おれが人間を手の届くところで見ることも実に久々だった。

長い話になる。
と言っても、おれはもう空気のようなものだから、

こうやってあの頃を思い出す時間も、
今では永遠というわけだが。
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