フクロウの声
マオリはまたも、沖田の気配に気づくことができなかった。
突然現れた沖田を見上げる。
 
さきほど、枕元に薬を置いてきた人物である。
夜目にも沖田が辛そうにしているのがわかる。

「その体で戦うのは無理です。」
 
マオリの後ろにしゃがみこんだ沖田にマオリは言った。

「こんな時に、寝ていろなんて言わないで欲しいな。」
 
糸の絡んだような呼吸がマオリの背中のそばで音を立てる。
沖田は真っ直ぐ、路地の向こうを見つめている。

「斉藤を通して、平助に隊に戻るように言ったらしい。」
 
沖田の後ろに立っている永倉が小声で言った。

「ふうん。それでどうしたんです?」
 
沖田は路地から視線をそらさず聞き返した。

「断ったそうだ。」

「そうですか。」

身を固くして二人の会話を聞いていたマオリの肩で、
フクロウがピクリと動いた。

「来る。」
 
かすかに、遠くから駆けてくる足音が聞こえる。
マオリは刀をぐっと引き寄せた。
同じように後ろでは沖田、永倉ともすぐに抜刀できるよう構えた。

< 135 / 206 >

この作品をシェア

pagetop