恋猫
扇子は竹の部分が少し濡れただけで、紙の部分は大丈夫だった。
篠は、その扇子を自分の席の後方に乾くまで置いておく事にした。
「美化!駄目じゃないか。普段はあんなに大人しいのに。いったい何があったのだ。篠さま、ご迷惑をかけて誠に申し訳ありません」
淳ノ介が篠に侘びを入れた。
「いいえ、お気になさらずに。美化というのね。美化こっちにおいで」
篠は部屋の隅でべそを掻いている美化のそばに寄って来て、背中を撫で、ひょいと抱き上げた。
「美化、大丈夫。気分でも悪いの。蚤にでも噛まれたか。痒かったの。それで、飛び出したのね。ああ、そう。そうだったの。痒いの痒いの飛んで行け。どう?もう痒くない。良かったね」
篠は怒るばかりか、着物を汚した美化に愛情深く接した。
淳ノ介は篠の気立ての良さ、愛情深さに心打たれた。