恋猫

 「忘れ物をしまして。私とした事が申し訳ございません」


 化身した篠が、篠の声色と、言葉遣いを出来るだけ真似て言った。


 「何をお忘れになったの」
 「扇子でございます。濡れたお茶が乾くまで部屋の隅で乾かしていた物です。ご足労かけて申し訳ございません」


 「扇子ね。いま取って参りますので、少し待って下さる」
 「すみません」


 菊は中へ扇子を取りに行った。


 篠は辺りにきょろきょろ目を動かせながら、勝手知った屋敷内を初めて見るような顔をして眺め回していた。


 その時、人の気配が近付いて来た。
 猫は気配を感ずる能力が、人より数倍優れている。


 玄関に出て来たのは、あの憧れの淳ノ介さまだった。






 
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