恋猫

 淳ノ介は手に扇子を持っている。
 菊に「あなたが持って行くように」と、多分言われたのだろう。


 「これ、お忘れ物の扇子です」


 淳ノ介が微笑みながら扇子を篠に手渡した。


 「ありがとうございます。ぼーとしていて、呆れられたでしょう。私(わたくし)いつもこうなんですのよ」


 篠が扇子を受け取りながら笑顔で答えた。
 淳ノ介は篠が化身した篠だとは、全く気付いていない様子。


 声色、言葉遣い、化身した篠は、篠に成り切っている。
 まるで、篠が化身した篠に、乗り移ったようだ。

 「本当にご迷惑をお掛け致しました。では、これで失礼致しとうございます」

 篠は頭を下げて、帰る素振りをした。


 「陽も沈み女子の一人歩きは、何かと物騒かと。私が屋敷までお送り致します」


 淳ノ介が篠を送る事を申し出た。






 
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