××倶楽部
────マーベラスの女王様送迎用その他諸々に使うという、高級車の右側の助手席に乗り込む。
私は車に詳しくないからよくわからないけど、なんかすごい車ってことくらい分かる。シートが異常なくらいフカフカだし、後部座席が遠くて車内が広い。
「こんな時にあれなんですけど、この車、なんていう車なんですか?」
「ロールス・ロイスですよ。父の私物です。実家のガレージにしまってあったので勝手に僕が店の車にしちゃいました」
「ああ、ロールス・ロイスですか…………」
聞いたことあるけど……こんな車がガレージに眠ってる社長のお宅って、きっとお金持ちなんだろうな。
私とは、ちょっと違うのかもしれない。
「ハヅキ様、もしかしたらリオ様の風邪がうつっちゃったのかもしれませんね?」
青白い顔した社長が、ふわっと顔の筋肉を緩めた。
「あはは、そうですよね。そしたら僕はまた看病してあげないと」
「私も手伝いますね。
社長って会社で一番えらい人なのかと思ってましたけど、社長を見てると一番大変な人だってことがよくわかりました」
いつも皆の心配して、いつも皆に振り回されて、受け止めて。社長って大変だ。
ロールス・ロイスが交差点の赤信号で停まった。
社長はホッとしたようなため息を吐き出すと、指先でメガネを元の位置に戻して私の方を見た。
「ありがとうございます。わかってくれて…………」
そのまま不意打ちのキス。車の中の芳香剤の香りに紛れて、昨日と同じ社長の爽やかな香りに一瞬包まれる。
すぐに信号が青に変わって、ロールス・ロイスはお行儀よく発進した。