~ Sweet Chocolate ~
楽しい時間を過ごせたのか、幸せそうに眠る咲良に布団を掛け、部屋に戻る。
窓を開け、空を見上げる。
月明かりと小さくも輝く星達が綺麗で涙が浮かぶ。
どれだけ手を伸ばしても、掴む事も届く事もない。
まるで、ラブセを見ているみたいで虚しくなる。
どれだけ想っても、恋心は伝わる事なく終わりを迎える。
一般人を好きになれたら、少しは楽になるんかな?なんて考えた事もあったけど、結局、心からラブセが消える事は一度も無かった。
生温い空気を吸い込み、窓を閉め、ベッドにダイブ。
そのまま、意識は手離された。


暑さで目が覚め、時計を見ればAM10:12を示していた。
寝汗を流す為に、シャワーを浴びる。
生乾きの髪を拭きながら、キッチンに向かう。

「おはよー、お茶飲む?」
「おはよ。ありがと、貰うわ」

お気に入りのコップに注がれた麦茶を流し込む。

「ママ達は?」
「あれ?楓ちゃん、聞いてないん?ママとパパ、旅行行ったん」
「はぁ?何も聞いてないねんけど。暫くしたら帰って来るんやろ?」

咲良は、何も言わず冷蔵庫に貼られた広告を指さす。
其処に書かれる文章は紛れもなくママが書いたもので。

『楓ちゃんと咲良ちゃんへ。ママとパパは旅行して来まーす。日本に居るから心配はせんで良いからね!ちょくちょく、連絡はするよーに。生活費は振り込んであるから計画的に使ってねー♪』

「えっ、と。無期限旅行?何、考えとんねん!」
「何も考えてない証拠が、この結果やと思うけど。」

麦茶を飲みながら、冷静に言葉を零す咲良は大人やと思う。
僕よりも遥かに。

「取り敢えず、店行かなアカンし、準備しよか。咲良も行くんやろ?」
「行くー!ケーキ食べたいし」
「やっぱり、目的はケーキかい」

甘いもん好きの咲良からすれば、オアシス的な場所なんやろう。
嬉しそうに準備する咲良を気に掛けながら、準備をする。

「ほな、行こか。」

外は、太陽の暑さと熱気で更に暑さを感じる。
これから起きる問題も知らずに、自転車を走らせる。
まさか、あんな状態に遭遇するなんて、ね?

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