甘い唐辛子
シンプルな部屋にはその靴は輝きすぎていた。
揃えて置かれている靴から、維十が意外と几帳面なのがわかった。いや、ただ単に綺麗好きとか、そういうこだわりがあるだけかもしれない。
とりあえず、立っているだけでは仕方がない。
揃えてあるのをそのままに、靴に足を入れた。
その時、ふと頭に映像が広がった。
幼い頃、両親とも仕事で帰りが遅くなり、先に寝るように言われて1人で布団に入っていた。
どうしても心細くて、部屋のドアに向かって声をかけた。
『誰かいない?』
返事は直ぐに返ってきて、長身の男が入ってきた。
私の護衛をしている内の1人、晃だった。
晃は私の枕元まで来て、絵本を読み出した。
その絵本の表紙には、ちょうどキラキラ輝く硝子の靴に、右足を入れようとしている女の人が描かれていた。
オンボロの服には、お世辞も言えない程硝子の靴は似合わなくて、それでも履いてみようとする気持ちがわからなくて…………
私はシンデレラをバカにした。