この声が枯れるまで
「みなさん。明日は30度を超える真夏日となるでしょう。」


「うええええ。熱すぎて死ぬ!!!」

いよいよ明日は修学旅行。俺は、最近買ったスポーツメーカーのリュックに水筒やら、タオルやら着替えやらを詰め込んでいた。くっそー。このリュックに弁当はいんねーじゃん。なんて愚痴をこぼしながらも、着実に修学旅行の日は近づいてくる。毎日見ているニュースのアナウンサーがちょっと髪を伸ばしているとか、今日の空は雲がおかしいとか、そんなことを気にしながら俺は「修学旅行のしおり」と太字で示された冊子に目を通していた。




「じゃあ、母さんはもぅ寝るからねー。起こさないでよー。」



「え。今何時?」


「もう11時。」



はやっ!一瞬時計がこわれてるのかと思った。時間がたつのが妙に速く感じた。



「えーっと。最終確認!!持ち物は~……タオルと、弁当と~………」



………



俺は、自分の机の中から、最近買った、ブルーのウォークマンを取り出し、ボリュームを3つ上げた。今日の星はきらきらしていた。やっぱり明日は30度越えるな。なんてため息をつきながらも、やっぱり空の美しさに心を癒されてしまう。夜、車が通らなくなった道路は、とても静かで、ピカピカ光る信号だけが奇麗に見える。



俺はもっとボリュームを上げた。甘いバラードの曲だ。好きな人がいるけど、その人は自分がその人のことが好きなことを気づいていないという、とても切ない曲である。



「あっちぃー。」


シャっとカーテンを勢い良く閉めると、ごろんとベットに横になった。ベットはふかふかしていて、俺を夢の中まで運んでくれる空に浮かんだ雲のようだった。



俺はそんなよい環境に心をあずけ、すーっと眠りについた。





夢の中では、「この声が枯れるまで」が何回も何回も頭の中でリピートされた。




< 28 / 59 >

この作品をシェア

pagetop