溺れる唇
広場を抜けていく足取りが
いつもより弾んでいるように見えたのは、
俺だけでは無かったらしい。
最初に翔子を見つけて声を上げたタケが、
階段を上って行く彼女を見ながら言う。
「安藤先輩、沢田と付き合ってるんだって」
「え?」
訊きかえしたのは、俺だけじゃなかった。
何人かの顔に明らかな落が浮かんだのが
分かった。
多分、俺もそうなんだろうけれど、
少し高い位置に顔があるせいで
見えづらいのをこの時ばかりは感謝した。
食堂での事件があった時から、
顔を見れば軽い挨拶を交わす程度には
顔見知りになっていたけれど、
俺達の関係はその程度でしかない。
わかってはいたけれど、
俺は多分どこかで期待していたんだ。