一緒に暮らそう
紗恵は潮風に吹かれ、瀬戸内海を見下ろしていた。

海の色が違う。彼女の生まれ故郷の海は、今の時分鉛のような色をしていた。

ここには一足早く春が来ていた。バルコニーには明るい日が差している。

ついに来てしまった。生まれた町を捨てて、知り合いも誰もいない、来たこともない町へ。
我ながら酔狂だと思う。

おばあちゃんがいなくなった今、もはや田舎にしがらみはなかった。
小学校から仲の良かった友達も、もう結婚して子どもがいる。今は友達と会うことも少なくなった。

ふたば屋の経営を続けていくのも正直大変だった。叔父が値上げした店の賃貸料を毎月払い続けるのも厳しい。

いつまた暴漢に襲われるかわからないという不安もある。奴らを陰で操っている堀込自身が接触してくるのも嫌だ。

色々考えた末に、新多の言葉にのることに決めた。人生には思い切る瞬間があるのだ。
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