一緒に暮らそう
 実家では和朝食だったと言ったら、彼女は味噌汁とご飯を用意するようになった。主菜は日替わりで卵焼きと焼きサケあるいは目玉焼きとハムが出てくる。まるでちょっとした旅館に泊まったような気分だ。
 以前は、味気ないトーストを口に放り込んで家を出ていったものだ。

 新多はテーブルに着いた。今朝のメニューは焼きサケに出汁巻き卵、小松菜のおひたしだ。朝から食欲をそそられる。

「ご一緒していいですか」
 紗恵がたずねる。
「もちろん。朝くらい一緒に食べよう」
 新多は夜遅いので、同居人の紗恵は先に夕食を済まし、自室に引っ込んでいる。

 彼の向かいに紗恵が座る。彼女は微笑んでいる。
 なんだか家族といるみたいな、こそばゆいような不思議な気持ちになる。家で誰かと食卓を囲むのは、盆や暮れに実家に帰った時くらいだ。

「うまい」
 とつぶやくと紗恵が微笑む。
「お弁当も作ろうかどうか迷ったんですけど、職場で変に怪しまれたら困ると思って……」
 紗恵がいったん言葉を切って続ける。
「今更ですけど、斉藤さん、独身ですよね?」
「ああ。そうだけど。所帯持ちだったら、こんな生活を君に提案しやしないよ」
「そうですよね」
< 44 / 203 >

この作品をシェア

pagetop