一緒に暮らそう
「斉藤さんは? 学生時代はどんなことを勉強してたんですか」
 彼は一流企業の研究開発職員だ。きっと紗恵の知らない難しい分野を勉強していたのだろう。
「応用物理学」
「ああ、そうなんですか……」
 そう言われても紗恵には一体どんな分野なのか皆目見当がつかない。

 新多が言葉を続ける。
「大学がこっちの方だったんだ。だから学生時代には時々この神戸にも遊びにきていたよ」
 そう言って彼は自分の母校、日本の最高学府の双璧である国立大学の名を挙げた。紗恵の出た高校からそんな大学へ進学した同級生などいない。せいぜい地元の駅弁国立大学が関の山だろうか。目の前に座っている男は相当なエリートコースをたどってきたみたいだ。

「出身も関西なんですか」
「いや、地元は千葉だよ」
 そう言われてみれば彼には関西のなまりがない。
「大学と大学院だけこっちで、就職してからは地方の研究所を三か所回った。君のいた町も含めてね」
 彼も根無し草のように地方をあちこち放浪している。そういう浮遊感だけは自分と似ていると紗恵は思った。
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