一緒に暮らそう
 渓流を見下ろす檜造りの風呂である。
 庭木の枝がすぐそこまで垂れ下がってきて、手を伸ばせば葉に触れられそうだ。

 湯船の吹き出し口からコンコンと源泉が流れている。
 二人は湯にその身を浸した。

 耳を澄ませば、渓流からせせらぎの音が聴こえる。
 見上げれば、峡谷の間に春の月がかかっているのが見える。

 彼らは何も言わずに、互いの唇を重ねた。
 しばらくそうしていた後、新多が紗恵の細い体をその膝に抱いた。
 
 流れる時は短くも長くも感じられた。
 
 新多が紗恵の白いうなじに唇を這わせる。
 その刹那、彼女の首筋から背中にかけて電流が流れる。
 切ない声を漏らしながら、彼女は彼にされるままになっている。
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