鬼滅羅〈キメラ〉
啓吾を残してアパートを出ると、私はタクシーを広い、行き先を告げた。
タクシーを降りると、見慣れた渋谷のスクランブル交差点が目に飛び込んできた。
駅前の広場を少しうろついていると、その男はすぐに見つかった。

「あんたの方から捜しに来なさいよ。役立たず」

私は高飛車に笑いながら、言い捨てた。
男は、何も答えなかった。困ったような顔をして、うろたえているだけだった。

「なんであんたを呼んだのか、分かってるわよね?」

煙草に火を点けながら、横目で男を見やった。

喜兵衛という名のその男は、190cmを超える大きな躯体に似合わない小さな頭を傾げていた。もごもごと唇を動かしているが、言葉が出ないようだった。

「ふん」

煙草を男の腕に捻りこみながら、私は彼を嘲った。
さすがに、「痛…」と呟いたようだった。

「あんたみたいな脳足らず、こんなことくらいにしか使えないじゃないの。このグズ。まぁいいわ。あんたに役目を与えてあげる。もちろん、やってくれるわね?」

吸い殻を彼の身体から離してやりながら、私は微笑んだ。

「殺してちょうだい。あの男を」
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