エゴイスト・マージ

ポツリと。

それは本当に聞き取れるかどうかの
小さい声だった。


「本当は、死んでも良かったんだ」

私は驚いて裄埜君の方を見た。

当の本人はぼんやり天井を見ている。
その表情からは真意など
分からなかったけど、それでも冗談には
どうしても聞こえなくて。

「……やめて。そんなこと言わないでよ。
あの時、どんな気持ちでいたと思ってるの?」

ついムキになって
私は声を荒げて叫んでしまった。

「雨音……」

「ご、ごめんなさい。
助けてくれた人にこんな事言うとか
……私ってホント最っ低。
でもお願いだからそんな事言わないで。」


「いや、俺が悪いな。
もし俺が死んだりしたら
雨音、一生自分を責めるだろうからね」

多分彼は今笑ってみせたんだと思う。

でもそれは今まで見たどれとも違う
あくまでらしきもので、どう受け取れば良いのか
私には分からなかった。


裄埜君。


優しい人。


だけど、多分ただそれだけの人ではないと
思い始めている。

――根拠も何も無いけど。


「それに死んだら君の顔や声が聞けないな」


「…………」






「所で、学校の方はどう?」


長い沈黙を打ち消すように
裄埜君は唐突に話題を変える。


裄埜君が来なくて
噂になってる事、学校の事
授業の事を考え得る色んな事を話した。

多分私が話さなくても友人が多い
裄埜君ならメールとか電話とかで
既に殆どのことを知ってるだろうと
思いながら。

私は時々裄埜君を包帯姿を見てるのが
居た堪れなくてその度に泣きそうになった。

どんなに気を付けていても
涙で時々視界が霞みそうになるから
ノートを出して視線を逸らすことで
必死に回避していた。

それでも瞬きをした瞬間ポタリと
雫が落ちてしまって慌てて袖で拭い誤魔化す。

「……雨音」

「ちが……此処難しくってね、
友達に聞いたんだけど、分からなくて
明日テストあるから今日はもう帰る――」

「雨音……顔上げて」

私は絶対このままだと涙が止めどなく
出そうで頭を横に何度も振った。


顔を上げようとしない私の手に
彼の包帯の手が乗る。

「何度も言うよ、君は悪くない」


何故……

何故、この人を私は好きになって
いないんだろう?


何故?何故?

何故、私は彼に恋をしなかったんだろう?
こんなに自分を大事にしてくれた人は
母親以外いなかった。

庇ってくれたとか単純にそうではなくて
もっと感情の奥底を底を
揺さぶってくるこの人に
好きになれれば良かったと思う。


心が軋む音が聞こえる。

私は裄埜君が好き。
だけど先生に持つ感情とはソレは違う。

それを裄埜君が知っているのも辛い。

「でも、私が出来ることはなんでもする。
何でも言って欲しい」


乗せられていた手が私の指に絡む。


「……何でも?」

「うん」

「じゃ、キスして」


「…………!」

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