エゴイスト・マージ


その子には見覚えがあった。



放課後、先生からの頼まれごとに
いつもより遅れた私は三日ぶりに
裄埜君の病室を訪れていた。

部屋をノックしようとして
中から人の話し声が聞こえる。

看護師さん?それとも身内の人?

(……どうしよう)


「ご……だって……月島……」

本当は今日は帰ろうと思っていたのに
気が変わって扉に手を掛けたのは、

自分の名前とその声に聞き覚えがあったから。

開けてその顔を見た時やっぱりと
疑惑が確信に変わった。

以前、女の子達に連れ込まれ
殴られた記憶は新しい。

取り分けこの人は最後まで私を
殴っていたから印象が強烈に残っている。


しかも――


「何でアンタが無事なんだよ!?」


私はその人が発した言葉で
この一連の事故が繋がった気がした。

彼女に近づいて怒りにまかせ
加減せずに頬を殴った。

「よくもこんな事を!!
一歩間違えれば人が死んでたのよ!?」

殴られた頬を抑え彼女は
尚も私を睨み返し、

「アンタが死ねば良かったのに!」

と言い返してきた。

「簡単に人に死ねとかいわないでよ、
バカじゃないの!?」

私はもう一度、その頬を殴り
その子が応戦してきたことで
掴み合いに発展した。


「やめろ!やめるんだ!!」


裄埜君の声は聞こえたけど
だからって止めれる訳が無い。

腹が立って腹が立って仕方がなかった。

私はこの人なんかにこんなこと言われる
理由はないし、ましてや殺される理由も無い。

「アンタなんかに裄埜を!」

裄埜君……ああ、そっか。
それが理由なんだ?

「私の裄埜君を取られたと思ったから?
そんな理由で人を殺すんだ?」

理由は分かったけど同情するには
常軌を逸している、しかも誤解なのに。

「裄埜の事、何にも知らないくせにッ!!」

「だから何?知らなかったら
友達にもなれないの?」

「アンタが――」

「あ、すみません。
面会人達が暴れてるので
つまみ出して下さい」

気付けば裄埜君を見るとその手には
ナースコールが握られていた。

「何やってんの!ここは病院なのよ!
個室だからって静かにお見舞いが
出来ないなら二人とも出禁にするわよ!」

いつの間に部屋には看護師さん達が数人、
私達は取り押さえられてしまった。


「悪いんですが、二人共怪我してるので
良かったら、こっそり手当して貰えると
助かります。あ、それと二人同じ部屋だと
また喧嘩が始まるかもしれないので、
彼女は処置室でお願いできませんか?」

お願いします、と
裄埜君が頭を下げるとモテる男は
辛いねぇと言いながら今回だけだよと
釘をさして、看護師たちは先に出て行った。

看護師に連れて行かれようとしていた
その子をすぐ行かせますからと
裄埜君が引き止めた。

「ナツ、
君には悪いことをしたと思ってる。
原因の発端は全て俺にあるし、
怪我をしたことも自業自得だともね。

でもね、それを差し引いても
今回の事は許せない。

二度目は無いと前に忠告したよね?
俺で良かったんだよ、もし
これが雨音だったら躊躇なく君を
突き出してる。

自分で行くか、俺が通報するか
どちらか君が選んで良い。
……それと、俺もケジメは着ける。
彼女に自分で話す、全てね」

「裄埜、私は……私」

「嘆願書かくよ、
見捨てたりはしない。
――恨むなら俺を。
全部受け止める覚悟あるから」


「裄埜っ!……裄埜!!」

彼女はその場に泣き崩れてしまった。

私は正直どうして良いのか
分からなくて、見てるしかなくって
そんな自分が堪らなく嫌になった。


この子はやり方は明らかに間違っている。

だけど。裄埜君を想う気持ちは
遠く及ばない。
心の底から裄埜君を好きなんだと
悲痛な程伝わってきた。

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