愛するということ
ペろっと舌を出しながら、瞬をからかう拓馬からは、この後、悲しい報告をするなんて、これっぽちも感じさせない。


「ウソうそ。あーまな板はホントだけど。この筑前にちょうだい。煮物に飢えてるから俺」

「妹にセクハラ発言なんて、信じらんない。でも、いいよ。あげる」



ブーブー膨れる瞬の横で、クスクス笑っている拓馬。

なんだか、俺だけビクビクしてる。
せっかく、和んだ空気に、俺の緊張が伝わらないよう、そっと部屋を出ることにした。




談話室でアイスコーヒーを飲みながら、外を見ると、さっきまできれいな月が、どんよりした雲に隠されていた。




フゥ―っと一息ついて残りのコーヒーを流し込み、少し重い足取りで、病室に戻った。


夕飯を終えて、テレビを見てい拓馬と、瞬が部屋に入った俺に、同時に視線を向けた。


「どこ行ってたの?」

「あー、談話室でコーヒー飲んできた」

「なんだぁ、自販機行くなら、アップルティー頼めばよかった。」

「あーごめん。後で買ってくるよ」




拓馬が、そっと俺に座るように目線を送ってきた。
俺は、ベットから少し離れたソファーに座った。


俺が座ったことを横目で確認すると、拓馬がスッとテレビのリモコンでテレビを消した。

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