12年目の恋物語
顔を上げて、先輩を見ると、
「ハルちゃんは、良い友だちがいるね」
そう言って、羽鳥先輩は今までで一番、ステキな笑顔を見せてくれた。
もともと、止まりかけていた涙は、その笑顔を見た瞬間、完全に止まった。
先輩の笑顔には、それだけの力があった。
スゴい人。
この人を敵に回しちゃダメだ。
失礼ながら、本能的に、そんなことを考えてしまった。
「キミが真剣なのは分かった」
「あ。……ありがうございます!」
お礼を言うところなのか分からないまま、わたしは反射的にお礼を言っていた。
そんなわたしを面白そうに見て、先輩は、優しく笑った。
「ボクでよければ、力を貸すよ」
ウソ!
「ありがとうございます!」
今度こそ、力いっぱい声を張り上げて、それからわたしはガバッと、きっちり90度まで頭を下げた。
先輩はまた笑った。
笑うところじゃ、ないと思うんだけど。
「寺本さんは、体育会系だね。そう言うの、本当は苦手なんだけどね」
さっきとは違って、苦笑する先輩。
「あ! すみません!」
「いや。いいんじゃない?」
それから、先輩は腕時計に目を落とした。
「もうすぐ予鈴だね。続きは、放課後でも良いかな?」
「はい!」
「待たないよ。授業が終わったら、飛んできて」
そう言うと、先輩は歩き出した。
わたしは、どうやって部活を休もうか、算段をしはじめた。