12年目の恋物語

顔を上げて、先輩を見ると、



「ハルちゃんは、良い友だちがいるね」



そう言って、羽鳥先輩は今までで一番、ステキな笑顔を見せてくれた。



もともと、止まりかけていた涙は、その笑顔を見た瞬間、完全に止まった。



先輩の笑顔には、それだけの力があった。



スゴい人。

この人を敵に回しちゃダメだ。



失礼ながら、本能的に、そんなことを考えてしまった。



「キミが真剣なのは分かった」



「あ。……ありがうございます!」



お礼を言うところなのか分からないまま、わたしは反射的にお礼を言っていた。

そんなわたしを面白そうに見て、先輩は、優しく笑った。



「ボクでよければ、力を貸すよ」



ウソ!



「ありがとうございます!」



今度こそ、力いっぱい声を張り上げて、それからわたしはガバッと、きっちり90度まで頭を下げた。



先輩はまた笑った。



笑うところじゃ、ないと思うんだけど。



「寺本さんは、体育会系だね。そう言うの、本当は苦手なんだけどね」



さっきとは違って、苦笑する先輩。



「あ! すみません!」

「いや。いいんじゃない?」



それから、先輩は腕時計に目を落とした。



「もうすぐ予鈴だね。続きは、放課後でも良いかな?」

「はい!」

「待たないよ。授業が終わったら、飛んできて」



そう言うと、先輩は歩き出した。

わたしは、どうやって部活を休もうか、算段をしはじめた。
< 128 / 203 >

この作品をシェア

pagetop