tearless【連載中】
そんな空間に静かに足を踏み入れると、ただ自分の席に向かいイスに体を預ける。



『柏木―、授業もう始まってるぞ…』

「…すいません」

『夏休み近いからって、だらけてんじゃねーぞ』



黒板に文字を書きながら放たれる嫌みたらしい言葉に、グッと眉間に皺を寄せるとそのまま机に突っ伏した。

“はぁ…”

溜息をつくと、煩い程に鳴く蝉の声に耳を傾け瞳を閉じる。

浮かぶのはやっぱり璃琥の顔で、色んな表情が走馬灯のように駆け巡り、複雑な気持ちになった。



「…あの時、何言おうとしたんだろ…私」



祐樹の事?

告白の返事?

もしチャイムが鳴ってなかったら、何かしら話してた?

それとも結局話さなかった?

漠然と考えてみる。



「ダメだ…。頭回んない…」



暑い教室に耳障りな蝉の鳴き声。

おまけに嫌いな授業…。

とても考えられる環境じゃない。

“葵、何ブツブツ言ってんの?”不意に後ろを向いた結衣が私を見下ろす。



「ごめん、何でも無い」

『話できた?』

「どーだろ…?」



そう言うと“そっか…”と、また私に背を向ける。

その背中を見つめ“言わなきゃ”と焦る自分が存在し始めていた。


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