tearless【連載中】
「ありがと」



ポツリ呟くと、手に取った鞄を膝の上に乗せる。



“もう、隠すのも限界かな…”



本当は、誰にも言う予定は無かった。

アイツとの事は、無かった事にするハズだったから…。

まぁ、ハズだっただけで実際は未だに怯えてる。

でも、消せると思ってた。

別れて、解放されて、アイツと逢わなくなった時、本当に忘れられる気がしてたのに…。



「結衣…。今度時間作ってくれる?あの話…したいんだけど」



アイツの事考えるのも口に出すのも嫌だけど、結局私は縛られたまま。

言って忘れられるとも思わないし、寧ろ必要以上に心配されて嫌でも思い出してしまうかも知れない…。

でも結衣は、泣くほど心配してくれたから。

無理に理由を聞く事も、呆れて私から離れる事も無かった。

本当はこのまま消えてくれたら一番良いんだけど…。



『無理しなくて良いよ?』

「無理してないよ。このままいても何も変わらないし…」



私も前に踏み出さなきゃ…。


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